「お前、何故これが王族の証だと分かった?」
「子どもの頃セレナが王族の証がオレたちの目の色だって教えてくれた…………あー‼︎ 思い出した! その国名何処かで聞いた事があると思ったら、子どもの頃セレナが作ってくれた絵本に出てきたんだよ! アレキサンドライトの事もその時教えて貰った!」 「絵本? それはまだあるか?」 二人でセレナと喜一郎が使っていた部屋へと向かい、押し入れを開ける。 整理整頓された箱が並んでいて、一つずつ取り出して中身を確認していく。その内の一つを開けると煌びやかな白いドレスが出てきた。 「これはマーレゼレゴス帝国のものだ。しかも王族用のドレスだぞ」 「え、嘘……」 何故セレナがマーレゼレゴス帝国の服を持っているのだろうか。それも王族の物だ。セレナは銀髪で、玲喜と同じ不思議な色合いの瞳をしていた。 名前と見た目で玲喜は外国人だと思っていたのだが、異世界人の可能性は全く考えていなかった。 「セレナと言っていたな? その者はどこに居る?」 「セレナは十年以上も前に病気で亡くなったよ」 「そうか……」 落胆するゼリゼを見て、玲喜も残念な気持ちになってくる。 セレナが生きていたら、もしかしたらゼリゼが元の世界に戻る糸口が見つかったかも知れないからだ。 その他の荷物を開けていくと目当ての絵本が出てきた。 「ゼリゼ、これだ! あったぞ!」 もう古ぼけてすぐに破れてしまいそうな代物だけど、虫には喰われてはいなかった。 その絵本を開いて、またしてもゼリゼの目が驚きに見開かれていく。 「この絵本の挿し絵は、どれもマーレゼレゴス帝国の景色そのものだ」 手書きで書かれたイラストを何枚も捲っていって、二人で文字も読んだ。 小さな頃は良く分からなかったが、その絵本はファンタジー世界を主軸にした、双子の少年たちが主人公の冒険譚だった。 「セレナはマーレゼレゴス帝国の人物だった可能性が高い。それも王族だ」 ゼリゼの言葉にドキリとした。玲喜も同じ事を思っていたからだ。 「え? 嘘……何で」 「お前は何も聞かされていなかったのか?」 ゼリゼからの問いに、勢いよく縦に首を振る。 「セレナは外国人だと思ってた」 セレナがもしマーレゼレゴス帝国の人物だったのだとすれば、帰らずにそのまま日本で過ごしていた事になる。 喜一郎は知っていたのだろうか。 帰り方が分からなかったのか、それとも知っていてあえて帰らなかったのか真相は分からないが、後者のような気がした。 喜一郎はセレナを本当に愛していた。 愛して大切にしていた。 職人肌の喜一郎は無口で厳しい人物だったが、セレナと玲喜に向ける眼差しはとても優しく、慈しみを帯びていたのを思い出す。 心臓を鷲掴みにされたような痛みが走った。 ——じゃあ、もしかしてあの人も? 脳裏に一人の人物の顔が思い浮かぶ。 いつの間にかこの家に住み、いつの間にか居なくなってしまった男……玲喜の初恋でもあったラル・マニアンスもまた転移してきていた可能性が出てきたからだ。 あの喜一郎が文句一つ言わずに家に住まわせたのは、セレナと同じ異世界人だと知っていたからではないのか。 それならラルがセレナに『様』を付けて呼んでいた理由も納得がいく。 ゼリゼは昨日此処に来たのは何か意味があると言っていた。今なら玲喜も同意見である。恐らくはセレナが持っていたマーレゼレゴス帝国の持ち物が鍵となり呼び寄せている。 しかしラルの事を聞くと、自分の性癖までも露見してしまいそうで、玲喜は何も聞けずに視線を落としたまま口を閉ざした。 「玲喜、どうかしたのか?」 初めてゼリゼに名前で呼ばれた。 「ううん、何でもない」 玲喜は力なく首を振って答える。 そのまま荷物を漁っていると、ゼリゼが持っているアレキサンドライトの指輪や、アクアマリンのネックレスといった装飾品が出てきた。 昔見せて貰ったネックレスだ。 ゼリゼの瞳に良く似た宝石。アクアマリンを薄めてシルバーをメインにするとゼリゼの髪色になる。 船乗りを愛してしまった人魚の涙とも言われている宝石は、今も褪せる事なく輝いていた。 『玲喜、どうにもならない程困った事があったらこのネックレスを持っていなさい。貴方を導いてくれるわ』 セレナの言葉が脳裏で蘇る。 もしかしたらこのアクアマリンが鍵なのかも知れない。 「セレナはやはり王族だ。この純度の高いアレキサンドライトの指輪とアクアマリンのネックレスがその証だ。しかしセレナという名は聞いた事がない。何故だ」 そこまで言葉にしてゼリゼが一度口を閉じる。何かを思案するように顎に手を当てていた。 「玲喜、お前はセレナの本当の血筋か?」 静かな口調で問いかけるゼリゼに、首を縦に振って見せる。 「そうだよ」 「それならば玲喜、お前と俺はハトコという関係になるのかも知れん。やはり俺がこの家に転移したのは偶然じゃない。お前に流れる我が帝国の血と、この王族の証に呼ばれているのだろう」 それには流石に目を瞠る。「ゼリゼとオレがハトコ⁉︎」 「そうだ」 さっきから驚いてばかりだ。 ゼリゼの為に手掛かりを探るつもりでいたのに、思いもしていなかった方向へと話が流れていて、さっきから心音が激しく音を刻んでいた。 ハトコとなると玲喜自身も王族の血をひいている事になるからだ。 ずっと庶民だと信じて疑わなかった自分が、突然別の生き物になってしまったような気がして、玲喜は動揺していた。 「え、ええ⁉︎ いや、オレ庶民だし」 「そういう生き方しかしていなかっただけだ。お前はマーレゼレゴス帝国の正統な王位継承者だ」 「オレ、庶民でいいんだけど……」 「欲のない男だな」 二人で手分けして、どんどんセレナの荷物を開けていく。 しかし手掛かりになりそうなものはそれ以上何も出て来なくて、そのまま荷物をしまうはめになった。 ——あれ? アクアマリンの指輪もあった筈なのに無くなってる。何でだろう。 玲喜は不思議に思いながらも、その他の装飾品全てを布製の小袋に入れてゼリゼに手渡す。 「もしかしたら、ゼリゼが帰る糸口になるかも知れないから肌身離さず持っていた方がいいと思う。昔、セレナが言ってたんだ。このアクアマリンのネックレスが導いてくれるって」 「しかしこれはお前にとって形見だろう。良かったのか?」 ゼリゼからの問いに、玲喜は迷いもせずに頷いてみせた。 「いいよ。オレには過ぎた宝だ。それに元にあった場所へ戻してしまった方がいい気がするんだ。この家も無くなるから、新たな転移者が出た時戻れなくなってしまうのは可哀想だし」 本当にセレナがマーレゼレゴス帝国の王族であるならば、ゼリゼが元の世界に戻った時にあるべき場所へ返せるのではないかと思った。 その前にゼリゼに教えておくべき事項が幾つかある。手掛かり探しはそれからだ。 あとは暇つぶし方法を教えておこうと玲喜は心の中で決心する。 「そうだ、ゼリゼ。家ばかりに居ても退屈だろ? オレは明後日からはまたバイトでほぼ一日中家にいないんだ。ずっと一緒に居てやれないから、気晴らしに何処か出掛けてみるといいよ。意図しない所に手掛かりもあるかもしれないしさ。電車とか乗ってみるか?」 「電車?」 「そう、電車。時間潰しにもなると思う」 早速出掛ける事にして、ゼリゼを連れて駅に向かった。 「ここで乗車する
「お前、何故これが王族の証だと分かった?」「子どもの頃セレナが王族の証がオレたちの目の色だって教えてくれた…………あー‼︎ 思い出した! その国名何処かで聞いた事があると思ったら、子どもの頃セレナが作ってくれた絵本に出てきたんだよ! アレキサンドライトの事もその時教えて貰った!」「絵本? それはまだあるか?」 二人でセレナと喜一郎が使っていた部屋へと向かい、押し入れを開ける。 整理整頓された箱が並んでいて、一つずつ取り出して中身を確認していく。その内の一つを開けると煌びやかな白いドレスが出てきた。「これはマーレゼレゴス帝国のものだ。しかも王族用のドレスだぞ」「え、嘘……」 何故セレナがマーレゼレゴス帝国の服を持っているのだろうか。それも王族の物だ。セレナは銀髪で、玲喜と同じ不思議な色合いの瞳をしていた。 名前と見た目で玲喜は外国人だと思っていたのだが、異世界人の可能性は全く考えていなかった。「セレナと言っていたな? その者はどこに居る?」「セレナは十年以上も前に病気で亡くなったよ」「そうか……」 落胆するゼリゼを見て、玲喜も残念な気持ちになってくる。 セレナが生きていたら、もしかしたらゼリゼが元の世界に戻る糸口が見つかったかも知れないからだ。 その他の荷物を開けていくと目当ての絵本が出てきた。「ゼリゼ、これだ! あったぞ!」 もう古ぼけてすぐに破れてしまいそうな代物だけど、虫には喰われてはいなかった。 その絵本を開いて、またしてもゼリゼの目が驚きに見開かれていく。「この絵本の挿し絵は、どれもマーレゼレゴス帝国の景色そのものだ」 手書きで書かれたイラストを何枚も捲っていって、二人で文字も読んだ。 小さな頃は良く分からなかったが、その絵本はファンタジー世界を主軸にした、双子の少年たちが主人公の冒険譚だった。「セレナはマーレゼレゴス帝国の人物だった可能性が高い。それも王族だ」 ゼリゼの言葉にドキリ
「ゼリゼは、日本に来る前に何か変わった事をしたとか無かったのか? 後二カ月もしない内に、オレはここを出て行かなきゃいけないから、それまでに戻る方法を探さないと戻れなくなるぞ」 「二カ月?」 「ああ。この土地の買い手が見つかったらしい。今オレは立ち退きを要求されているんだ」 「何だそれは。俺が話をつけにいってやろうか?」 ゼリゼの言葉に思わず笑みが溢れた。 第一印象は最悪だったが、意外と世話焼きの良い奴なのかも知れない。新しい発見だった。 「いや、いいよ。どっちみちオレにはこの土地と家を守っていけるだけの経済力が無いんだ。だからこれで良かったんだと思う。喜一郎にも負担になったら直ぐに手放せと言われていた。だからオレの事はいいよ。ゼリゼが元の国に早く戻れるように手掛かりを見つけよう。ここにくる前に、何か変わった様子はなかったのか?」 「特には……。ただ従者と異世界の話はしていたな。ソイツも少し前に異世界へと飛ばされたと言っていた」 ゼリゼの言葉に玲喜の動きが止まった。 「ゼリゼの国では頻繁にあるのか?」 「どうだろうな。俺はソイツの話しか聞いた事がない。こんな事になるのなら戻り方もきちんと聞いておけば良かった。御伽話感覚で聞いていたから、まともに取り合ってもいなかった」 背中を洗い終えてボディウォッシュタオルをゼリゼに手渡す。 「前は自分で洗ってくれ」 玲喜の初恋相手は同性だった。 五歳の頃、ゼリゼと同じように突然この家にやって来た男だ。 ——やっぱり何となくだけどゼリゼと似ているんだよな。 顔立ちや髪の色合いは全然違うけれど、そこにいるだけで圧倒的な存在感を醸し出す所や、食事中の所作、立ち姿などが特に似ている。朧げな記憶を辿っていると懐かしくなってきて、それと同時にこの場に居た堪れなくなってきた。 次からはゼリゼ一人で風呂に入れるように、手早くシャンプーやトリートメント、ボディソープの説明を終わらせるなり風呂場を出た。 玲喜は己のセクシャリティーは同性だと思っている。 初恋以来同性にも異性にも恋愛感情を抱いた事はないが、この状況下で生理的に体が反応しない
次の日、息苦しさで目を覚ました玲喜は視線を這わせた。 端正な顔立ちをした男が、横向きに寝ている玲喜を抱きしめて寝ている。重いと思ったのは追い出した筈のゼリゼの腕だった。 銀色の長い睫毛に覆われている綺麗な二重瞼が微かに揺れて、ゆっくりと上下して玲喜を捉える。「何でまたオレん家にいるんだよ」「寝れそうな場所がここしかなかったからだ」「違う! どうやって家の中に入った? 鍵掛けてあっただろ……、お前まさか!」 自分で言っておきながら玲喜は息を呑んだ。 扉ごと壊して入ってきたのかと思い、ゼリゼの腕の中から抜け出すなり玲喜は玄関へ急いだが、鍵は掛かったままで壊れてもいなかった。安堵の吐息をつく。「鍵くらい魔法でどうにでもなる」 大きく伸びをしたゼリゼが玲喜のところまで歩み寄る。「魔法⁉︎」「見てろ」 百聞よりも一見に如かず。 玲喜の目の前で、ゼリゼが右手の指先を動かす。すると、かかっていた鍵が外れる音がして触れてもいない扉が勝手に開いた。「妨害魔法も張られていない扉等開けて下さいと言っているようなものだ」 どうだ見たか? とドヤ顔をしてくるゼリゼを見ていると頭に血が上ってくるのが分かった。 最後の一言がなければ「凄いな」くらいは言っていたかもしれない。「堂々と不法侵入しといて威張るな!」 だがこれで昨夜に電気が点いてたり消えてたりしていた謎は解けた。全てはゼリゼの魔法だったのだ。 ——何だよそれ。すげえ便利。カッコいい! 内心ではそんな事を思っていたが、悔しかったので口にはしなかった。「おい、食事はまだか? いい加減腹がへった。あとシャワーも浴びたい」 至極当然と言わんばかりにゼリゼがテーブルの前についている。 自分でやれよ、と言いたかったが一人分も二人分も大差ない。 玲喜は簡単に目玉焼きとベーコンを焼いて味噌汁とご飯をよそうとゼリゼの前に出した。 いただきますと手を合わせて箸を手にしたが、ゼリゼは不思議そうに箸を眺めている。「もしかして……箸を見たのは初めてなのか?」「これは、箸というのか」 角度を変えてじっくりと観察している所は何だか少し可愛く見えて、玲喜は表情を綻ばせる。 興味深そうにしているゼリゼに、取り出してきたナイフとフォークとスプーンを用意した。「これなら使えるか?」「むっ、俺もこの箸とやらを使
「何なんだよ、お前……。せっかく連れて来てやったのに。意味が分からない」「俺の意見も聞かずに勝手に交番とやらに連れてきたお前が悪いと思うぞ? ちょっとした意趣返しだ」 フンと鼻を鳴らして、ゼリゼは先に歩きだす。 ——客間にでも寝て貰おうかな。 ゼリゼの寝る場所を考えながら歩いている内に家に辿り着く。鍵を開けて入ると、躊躇なく土足で上がろうとしたゼリゼを慌てて止めた。「家の中では靴は脱げよ!」 その言葉にゼリゼが目を見開く。「ここが家……、だとっ⁉︎」 信じられない。掘立て小屋じゃないのか、とゼリゼの目が物語っていた。「い・え・だ! そんな事言うんなら二度と入れてやらないからな」 有無を言わさずゼリゼからブーツを脱がせると、家の中の電気を点ける為に手を伸ばしてある事に気がつく。 ——あれ? さっき電気ついてたよな? 消した覚えがなくて首を傾げる。 今日は訳の分からない事ばかりが続いていて、玲喜の疲れ果てている脳には優しくなかった。 とりあえず座卓の前に座布団を敷いて、座るように合図する。 茶を淹れる為に台所に向かって湯を沸かす。尻目にゼリゼを見やると、嫌そうな表情で座布団の上に胡座をかいていた。 手早く茶を入れ、ゼリゼの前に出す。それからテーブルを挟んだ反対側に玲喜は腰を下ろした。「それで、その皇子様は何でオレの家に居るんだ? て、何だよその設定……本当はコスプレか何かじゃないのか?」 玲喜から質問を受けて、ゼリゼが玲喜に視線を向ける。「コスプレとは何だ?」「何かのキャラクターを真似て、それっぽく見せる為に扮装《ふんそう》する事だよ」 持ち上げた湯呑みに口をつけてから言うと、ゼリゼはムッとした表情を作った。 もし仮にマーレゼレゴス帝国という国があったとしてゼリゼが本物の皇子だとしても、日本語が通じるのはおかしい。玲喜の胸中には不信感しかなかった。「第一、見るからに外国人なのに、そんな流暢な日本語を喋っている時点でおかしいと思うのが普通だろ。お前の存在自体が胡散臭い」「日本語? ああ。言葉は単に俺が魔法で分かるようにしているだけだ。お互い話しているのは其々別の言語だぞ。試しに解いてやろうか」「へ?」 驚いた顔をした玲喜の目の前で、ゼリゼが何かの言葉を紡ぐ。「ίκ τκπ πιίΰνξοιί ά ηδοοηΰ έδ
1 ——何で家の電気がついてるんだ? 出先から帰ってきた佐久間玲喜《さくまれき》は、扉を前にして立ち止まった。 アルバイトへ行く前にきちんと消したのを確認しているので間違いない。なのに扉に嵌め込まれている磨りガラス越しに灯りが見えた。 物取りの可能性を考えて、すぐに逃げ出せるように身構える。鍵を回してゆっくりと扉を開けたが、直後また閉めた。 ——誰だ……⁉︎ 慌てて表札を確認した後で握りしめたままの鍵に視線を落とす。やはり己の家だ。間違えていない。ならどうして知らない男が家の中にいるのだろう。 しかも目が痛くなるくらいに煌びやかだった。そんな外国人の知り合いなんて勿論居ない。 「は……? どういう事だ?」 物取りならすぐに警察へ通報するのだが、男はその類ではない気がした。 誰だと問う前に、先ず己の間違いを疑ったくらいには男は堂々とした佇まいで、さも当たり前だと言わんばかりに家の中に立っていたからだ。 思考を止めたくて玲喜はため息混じりに目頭を揉んだ。 ——疲れているんだな、きっと……。 二週間休み無しでの勤務は辛かった。 さっきまで睡魔と戦っていたくらいには睡眠時間が足りていない。 昔から肉体的疲労や怪我の治りは異常なまでに早いのだが、睡眠だけはどうにもならない。 脳が疲れているせいでありもしない幻覚を見たのだと、もう一度家の中に入る為に玲喜は扉に手をかけた。 すると今度は内側から勢いよく扉が開く。ゴンッと派手な音を響かせて、扉の前にいた玲喜の全身を叩いた。 「いった……ッ‼︎」 やや俯き加減で立っていたのが災いした。 強《したた》かに額を打ちつけてしまい、思わず両手で額を抑えながら蹲る。 「誰だお前は?」 涙目で見上げると男に問われた。 明らかに不審者を見るような目付きをしているが、玲喜からすれば男の方こそ不審者だ。鍵を掛けて出かけた筈の我が家に知らない男がいるのだから。 「いや、お前が誰だよ? どうやって入った?」 「誰に向かって口を聞いている。俺はマーレゼレゴス帝国第三皇子ゼリゼ・アルクローズだ」 「だから何だよ? 皇子だか何だか知らないけど、人んちに無断で入って良いわけあるか。待て……皇子って言った?」 「ああ。そうだ」 真顔で言われた。 ——